鹿児島県上野原縄文の森 (公財) 鹿児島県文化振興財団上野原縄文の森 埋蔵文化財情報データベース 鹿児島県立埋蔵文化財センター (公財) 鹿児島県文化振興財団埋蔵文化財調査センター
MENU

鹿児島県立埋蔵文化財センター

鹿児島県上野原縄文の森 HOME 公財 鹿児島県文化振興財団鹿児島県上野原縄文の森 埋蔵文化財情報データベース 鹿児島県立埋蔵文化財センター 公財 鹿児島県文化振興財団埋蔵文化財調査センター

第13回「遺跡出土の獣骨から見えてくるヒトと動物とのかかわり」

Ⅰ 遺跡から出てくる動物のホネ

 縄文時代の遺跡を発掘すると,矢の先端につける石鏃という狩猟具が大量に出てくることがあります。むかしの人々が動物を弓矢で狩って生活していたことが分かります。では,どのような動物を狩っていたのでしょうか。それを解明してくれるのが遺跡から出てくる動物のホネ(獣骨)たちです。

写真1 遺跡から出土した獣骨

Ⅱ ホネが残る条件

 遺跡から出てくるホネは完全な状態で出てくることは,ほとんどありません。日本は火山大国であり,ほとんどの地域が酸性土壌です。ホネの主成分であるリン酸カルシウムは,アルカリ性であるため,酸性土壌に埋まるとすぐに溶けてしまいます。そのため,遺跡からホネが出てくるのは,

貝塚・・・貝殻が酸性土壌を中和する
南西諸島の遺跡・・・珊瑚礁が基盤となるアルカリ性の土壌
洞窟遺跡・低湿地遺跡・古墳・・・ホネが空気に触れずにパックされている

などの特殊な条件の遺跡に限られてきます。

写真2 市来貝塚の獣骨出土状況(大量の貝殻とともにイノシシの下顎骨が出土している)

Ⅲ ホネを見分ける

 遺跡から出てきたホネが何の動物のホネかを特定する作業を「同定作業」といいます。その際に参考にするのが原生の動物のホネ(原生標本)です。動物の骨格は数千年の年月ではほとんど変化せず,動物の種類ごとにホネの形が違うため,原生の動物のホネと見比べることで,どの動物のホネかを特定することができます。

写真3 橋牟礼川遺跡出土のウシの下顎骨

写真4 現代のウシの下顎骨(黒毛和牛)

Ⅳ ホネから分かる人々の生活

 遺跡から出てきた動物のホネの種類,量が分かることによって,当時の人々の食生活や遺跡の周辺環境を推測することができます。これから紹介するのがその一部です。

1 狩りの対象はこの動物
 遺跡からは多くの種類の動物のホネが出てきます。しかしながらその量の比には偏りがあります。縄文時代の出土獣骨の約8割を占めるのがシカ(4割)とイノシシ(4割)です。この2種類の動物は中型動物であり,多数生息していて当時の人々にとって狩りやすい動物であったことが分かります。

写真5 市来貝塚出土のシカの骨

写真6 市来貝塚出土のイノシシの骨

2 あの動物もかつては鹿児島にいた
 遺跡から出てくる動物の中には,現在の鹿児島では野生種としてはお目にかかれない動物もいます。縄文時代の麦之浦貝塚(薩摩川内市)や柊原貝塚(垂水市)などの遺跡からは,日本では野生種がすでに絶滅したとされているオオカミや九州では現在生息していないツキノワグマのホネが見つかっています。当時の鹿児島にはこのような猛獣たちも人間の近くで生活していたことが分かります。

写真7 柊原貝塚出土のオオカミのホネ

図1 オオカミ出土遺跡分布図

写真8 柊原貝塚出土のツキノワグマのホネ

図2 ツキノワグマ出土遺跡分布図

Ⅴ ホネを道具へ

 むかしの人々は,狩った動物を食べて残ったホネをただ捨てるだけではなく,加工して道具にもしていました。それを「骨角製品(骨角器)」といいます。骨角製品は,釣り針や銛(もり)などの漁労具のほかに,首飾りなどの垂飾品が多くあります。鉄製品が普及した後の時代にも素材にあえて骨を使用する道具もあり,当時の人々が動物に対して特別な思いをもっていたことがうかがえます。

写真9 草野貝塚出土骨角製品

写真10 下山田Ⅱ遺跡出土骨角製品

Ⅵ おわりに

 現在の私たちはペットや家畜,野生動物など多くの動物たちと関わりを持ちながら生活をしています。それは大昔の人々も同じでした。今回紹介したように,遺跡の発掘調査から出てくるホネをよく調べることで,当時のヒトと動物との生活の一端を垣間見ることが出来ます。皆さんもぜひ,動物とふれあう中で昔の人々の生活に思いを馳せてみてください。

文責 宮﨑大和

【引用・参考文献】
 西中川駿・松元光春・河口貞徳1991「市来貝塚出土の動物遺体」『鹿児島考古』25鹿児島県考古学会
 西中川駿・宮﨑大和・松元光春2021「鹿児島の遺跡出土の動物遺体」『鹿児島考古』50鹿児島県考古学会
 垂水市教育委員会2005『柊原貝塚』垂水市埋蔵文化財発掘調査報告書8
 鹿児島県教育委員会1988『下山田Ⅱ遺跡 和野トフル墓』鹿児島県埋蔵文化財発掘調査報告書45