井手原遺跡(さつま町)~令和4年度刊行報告書から~
井手原遺跡(さつま町久富木)は,埋蔵文化財センターが,一般県道原口薩摩山崎停車場線整備改築事業に伴って令和3年度に調査した遺跡です。
調査では,旧石器時代や縄文時代草創期,縄文時代早期,縄文時代前期,縄文時代晩期,古代の遺構・遺物が発見されました。なかでも,旧石器時代の石器製作所跡の発見は,当時の人々の生活や行動を知るための手掛かりとなりました。また,縄文時代前期では,県内でも出土例が少ない西唐津式土器が見つかり,他の地域との交流の可能性をうかがわせる発見となりました。
以下のページから発掘調査報告書「井手原遺跡」(PDF)をダウンロードできます。詳しくは,そちらをご覧ください。
「発掘調査報告書一覧」
https://www.jomon-no-mori.jp/bunkazai-center/list
久保田牧遺跡(鹿屋市)~令和4年度刊行報告書から~
久保田牧(くぼたまき)遺跡(鹿屋市吾平(あいら)町)は,縄文時代早期から中世にかけての複合遺跡です。主要地方道鹿屋吾平佐多線(吾平道路)改築事業に伴って,令和元年6月から令和4年1月まで発掘調査を実施しました。令和4年度に刊行した報告書『久保田牧遺跡1 古代以降編』では,古代・中世・近世の調査成果を紹介しています。
古代では,掘立柱建物跡・土坑・畝間状遺構・柱穴跡などの遺構が検出されました。遺物は,土師器・黒色土器・須恵器・刻書土器・墨書土器・土錘・石製品などが出土しました。中でも,多くの墨書土器が出土したことが特徴的です。
中世では,掘立柱建物跡・土坑・溝状遺構・古道などの遺構が検出されました。遺物は,土師器・須恵器・瓦質土器・青磁・白磁・染付・陶器・滑石製石鍋・古銭・鉄製品などが出土しました。
これらの遺構・遺物は,当時の大隅半島の様子を知る上で貴重な資料です。
以下のページから発掘調査報告書『久保田牧遺跡1 古代以降編』(PDF)をダウンロードできます。詳しくは,そちらをご覧ください。
「発掘調査報告書一覧」
https://www.jomon-no-mori.jp/bunkazai-center/list
また,主要地方道鹿屋吾平佐多線(吾平道路)改築事業に伴って,周辺の「立塚(たちづか)遺跡」・「名主原(みょうずばる)遺跡」の発掘調査も実施しております。その調査成果は改めてご紹介します。
令和4年度刊行報告書から~「鹿児島城跡(犬追物馬場・火除地)」(鹿児島市山下町)
鹿児島城跡(犬追物馬場(いぬおうものばば)・火除地(ひよけち))は,鹿児島城御楼門(ごろうもん)正面に位置する,中世から近代にかけての複合遺跡です。国の鹿児島第3合同庁舎整備事業に伴って発掘調査を行いました。
遺跡からは,近世の瓦類,中国産陶磁器,国産の肥前系陶磁器や薩摩焼,木製品(杭・下駄類)などが見つかっています。さらに,名前のとおり,犬追物馬場の柵として使われていたと思われる木製の杭が見つかっています。
また,近世の造成層が確認され,これより下層には,元禄の大火の処理層や鹿児島城築城以前の中世層などが良好な状態で残存していることが明らかになりました。
今回の調査により,鹿児島城内の変遷や土地利用等を考える上で重要な成果を得ることができました。
詳しくは,下記ページより「鹿児島城跡(犬追物馬場・火除地)2」の報告書(PDF)をごダウンロードしてご覧ください。
今回の発掘調査で見つかった遺物等は,『上野原縄文の森 第67回企画展「新発見!かごしまの遺跡2023 ~発掘調査速報展~」』(2023年10月1日まで)にて,展示しておりますので,上野原縄文の森へお越しください。
大学生インターンシップ
埋蔵文化財センターでは,小・中学生 ・高校生の職場体験学習のほか 大学生のインターンシップや博物館実習等を受け入れています。
今回,大学生のインターンシップの申し込みがあり,9月4日から8日までの5日間,当センターの業務を体験してもらいました。整理作業の土器の接合や注記なども体験してもらいました。
「接合は大変でした。こうした地道な作業によって報告書ができていることがわかりました」(本人の感想より)
このインターンシップ体験が今後の進路選択に役立つことを期待しています。
埋蔵文化財専門職員養成講座(基礎講座・技術研修講座)
【埋蔵文化財専門職員養成講座(基礎講座・技術研修講座)】
当埋蔵文化財センターでは,県内市町村の埋蔵文化財担当者向けに,発掘調査・整理作業に必要な知識習得や技術の向上を目的とした,専門職員養成講座を開催しています。今回は7月20日と21日の二日間にわたり基礎講座と技術研修(調査技術)講座を実施しました。
基礎講座は,7月20日に鹿屋市名主原(みょうずばる)遺跡と東串良町郷土研修館で行いました。午前中は名主原遺跡発掘調査の現場を見学するとともに,発掘調査に至るまでの経緯や調査に必要な物品などついて研修を行いました。午後からは会場を移して,東串良町の取組について説明を聞き,文化財行政の実態を学ぶことができました。
7月21日は,名主原遺跡で遺跡の地層(土層)についての技術研修を行いました。
発掘調査では,遺跡がいつの時期にどんな人々がどんな生活をしていたかを調査しますが,その「いつの時期に」を知る手掛かりが土層です。
火山の多い鹿児島県では,火山噴火によって降り積もった噴出物の年代が分かっています。その火山灰層を鍵層として,時代を特定します。まず初めに,代表的な火山灰層の年代や特徴を紹介しました。
次に,発掘現場の実際の土層を見ながら,分層・作図に取り掛かりました。
土層は堆積した年代によって,含まれる物質(火山灰や土,砂,石など)が異なっていて,色や硬さなどの違いが生じます。それらをよく観察し,土層の境目に線を引きます。この作業を「分層」といいます。その後,分層した土層を用紙に作図していきました。
夏の現場の暑さや,途中降り出した雨にも負けず,参加されたみなさんは最後まで取り組むことができました。
今回の研修で学んだことを基に,各市町村でも発掘調査や整理作業が順調に進められることを期待しています。
「ようじょう」は「洋上」ではなく・・・
遺跡の発掘調査で「ようじょう」という単語を耳にすることがあります。
漢字では「洋上」ではなく,「養生」と書きます。
遺跡の発掘調査は,ほとんどが長期に渡ります。調査期間中にみつかった遺構や遺物の乾燥を防いだり,降雨で流されないようにするためにブルーシートやコンパネを使って覆い,保護したりします。それを「養生」といいます。
特に夏の時期は,暑さによる地面の乾燥やひび割れ,台風等の大雨による水害が多くなります。このためほぼ毎日,1日の作業の終わりには「養生」をして終了します。
発掘作業には,このような細かな対策も必要です。見つかった遺構や遺物を大切に守っているのです。
上野原縄文の森入園者250万人突破記念
2023年7月7日,上野原縄文の森が開園してからの来園者が250万人を突破しました。その幸運な来園者となったのは,さつま町立柏原小学校の児童たちでした。
同校の児童は,先月,校区内の大願寺跡で発掘体験をしたばかり。なんとも素晴らしい偶然です。
250万人目とその前後の児童には,記念品として上野原遺跡で出土した土器のレプリカが贈られました。また,ほかの児童たちにも記念品がプレゼントされました。きっといい思い出になったことでしょう。
これからも300万人,400万人と続くことを期待しています。
大願寺跡現地説明会
6月24日,大願寺跡(さつま町柏原)の現地説明会を行いました。
大願寺は1361年に創建されたと考えられている寺院で,この一帯を治めていた祁答院(けどういん)氏の菩提寺(ぼだいじ)です。
今回の調査は,「廃寺は語る」よみがえる鹿児島の仏教文化事業の一環として実施しました。トレンチ(遺跡の時代や遺構の分布などを確認するために,範囲を限定して掘り下げる溝)を4か所設定しました。その結果,土坑や溝跡,中世・近世のピット(柱穴)などの遺構,陶器などの遺物,縄文時代早期の土器を確認しました。
現地説明会ではこれらの成果を説明するとともに,大願寺の薬師堂跡や開山堂跡へ歩いてまわり,県指定文化財の石塔群についても紹介しました。
今回の説明会に40人の参加をいただきました。近隣の方々が多く,担当者の説明を聞きながら地域の歴史を再確認されていました。また,参加者から「近くにこんな場所もありますよ」など,新しい情報を教えていただきました。今後の調査や整理作業の参考にしたいと思います。
報告書発送
6月21日,令和4年度に鹿児島県立埋蔵文化財センターと鹿児島県文化振興財団埋蔵文化財調査センターが刊行した発掘調査報告書の発送作業を行いました。
全9遺跡14冊(分冊含む)をセットにして段ボール箱に詰め,運送業者に引き渡しました。その数およそ260箱。
発送先は国立国会図書館や文化庁,大学など関係機関,県内外の教育委員会などです。各都道府県に行き渡り,活用していただけるようにしました。担当者のみなさま,到着するまで今しばらくお待ちください。
またこれらの報告書は,埋蔵文化財センターのホームページからPDF形式でダウンロード・閲覧できます。以下のリンクからご覧ください。
https://www.jomon-no-mori.jp/bunkazai-center/list/
全国公立埋蔵文化財センター連絡協議会総会
令和5年6月8日,「全国公立埋蔵文化財センター連絡協議会」総会が,鹿児島市のサンロイヤルホテルで開催されました。
「全国公立埋蔵文化財センター連絡協議会」は,全国の自治体設立による埋蔵文化財センターや出土品管理センターなどが参加し,埋蔵文化財の保護・活用・調査研究の充実と情報交換や交流を目的として設立された組織です。
令和元年度から鹿児島県立埋蔵文化財センターが会長及び事務局を務めてきましたが,今回はその任期の最後の行事として,総会を開催しました。
全国各地の加盟機関が集まり,総会において令和4年度の事業報告や令和5年度の事業計画,次期事務局への引継ぎなどが行われました。
また,総会の中で,文化庁主任文化財調査官の近江俊秀氏による記念講演「埋蔵文化財保護行政の現状と課題」,鹿児島県文化財保護審議会会長の本田道輝氏による特別講演「南の考古学と埋蔵文化財保護行政の振興」がありました。
総会後は情報交換会が行われ,食事や鹿児島の焼酎を味わいながら,交流を深めることができました。
翌日の6月9日は,鹿児島城跡の御楼門や鹿児島県歴史・美術センター黎明館の視察見学を実施しました。参加された方々は,鹿児島の歴史や文化について理解を深められたようでした。
今回の総会を以って会長の役目を終えましたが,これからも各地の加盟機関と連携を図りながら,埋蔵文化財の保護・活用・調査研究の充実を進めてまいります。